かつて、山々が密に茂り、人々が未だ自然と密接につながっていた時代に、一匹の河童が人々と共に暮らしていました。名前は「カッパ太郎」。河童としては珍しく、人々と仲良く暮らしており、その存在は村人たちにとって恩恵でした。川で魚を捕ったり、作物の育成を手伝ったりして、コミュニティを支えていました。しかし、カッパ太郎が人々と過ごすうちに、自分の存在が本来どこにあるべきなのかという疑問が頭をよぎり始めました。
カッパ太郎は山へ帰ることを決意しましたが、その前に村人たちに別れを告げることが必要でした。村人たちはカッパ太郎がいなくなると、日常が不便になることは明らかでした。しかし、カッパ太郎はそのことをよく理解していましたが、心の中で「自分の存在が本当にここにあるのか」という疑問が消えなかった。村の子供たち、特に小さなゆいちゃんは、カッパ太郎が大好きで、その別れを受け入れることはできないでしょう。
ある日、村で大きな火事が発生しました。水を操る力を持つカッパ太郎はすぐに活躍し、多くの家屋と人々を救いました。この出来事で村人たちは再びカッパ太郎の価値を認識しましたが、カッパ太郎自身はますます自分の存在の意味に悩むようになりました。火事を経て、人々との繋がりが深まった一方で、山への帰りたいという気持ちもまた強まっていました。
その後、カッパ太郎はゆいちゃんに自分の決意を話しました。ゆいちゃんは悲しみましたが、「でも、カッパ太郎が幸せならそれが一番だよ」と言いました。その言葉にカッパ太郎は深く感動し、自分が村に残るべきか、山に帰るべきかの答えが出たように感じました。
最後に村の広場で、カッパ太郎は全ての村人に別れを告げました。その瞬間、大粒の涙がカッパ太郎の目からこぼれ落ちました。涙が地面に落ちると、その場所から美しい花が咲きました。村人たちはその花を「カッパ桜」と名付け、毎年その花が咲くとカッパ太郎のことを思い出しました。
カッパ太郎はついに山へ帰りました。心の中で何度も村人たちに感謝し、ゆいちゃんの顔を思い出しながら、山へと歩を進めました。山に帰ると、自分が何者であるのか、どこに存在するべきかがはっきりとわかりました。そして、その山で永遠に生き続けることを決意しました。だが、春が来ると、その足跡を追って低い山の麓に現れ、美しい「カッパ桜」の花が咲くその場所で、人々と再び出会うのでした。