とある男性が仕事ができないといわれて職場をやめることとなった事例を紹介しよう。
タカシは新聞の折り込みに入っていた生活用品宅配サービスの配送のパートの面接にやってきた。
荷物を玄関先まで届ける。
注文書をもらう。
次の家に向かう。
仕事はその単純作業の繰り返しである。
誰でもできる仕事で女性の従業員も多い。
一日の配達件数は40件ほど、早く終われば早く帰れるという話。
楽な仕事だとタカシは思った。
面接に立ち会った、社長もすごく気に入ってくれたみたい。
明日から来てほしいという。
俺ってできる人間なんじゃないかな、とタカシは思った。
朝の始業時間は8:30分、、、のはずだが、多くの人は8:00には出勤していて作業を始めている。
配達の時間が早く終わるよう複数のカタログと注文書を一つの袋にまとめているのだ。
配達の現場で行えばよい作業なのだが暗黙の了解で始業前にすることになっているらしい。
タカシには他の従業員が何のためにこの作業を行っているのかわからない。
面接の時にもらったマニュアルには書いてないことだし、必ずしもやる必要はないと言われている。
それから二人組になって配達車の点検。
ウィンカーはつくか?
ブレーキランプはつくか?
クラクションはなるか?
「ライトがついてない!」
パートナーの先輩から怒られる。
この年下の先輩はタカシに対してやたらと厳しい。
「年上だからって言っても、この職場じゃ俺のほうが上司だからな!タメ口はヤメロ」
と胸ぐらをつかまれて以来、怒られるのが怖い。
次の作業は配達荷物の搬入。
同じ大きさの発泡スチロール箱に詰められた商品を、倉庫から配送車の荷台に積み込む。
3人1組でバケツリレーの要領で積み上げていく。8段3列、箱は全部で100個ほど。
テンポよく渡されてくる箱をタカシはよく落とす。そのたびに作業が中断され送れる遅れる。
タカシが担当するトラックだけやたらと荷物を積み込むのが遅くなる。
何も言ってはこないが、先輩がにらんでるような気がする。
配送車が出発するまでには多少時間があり、余裕を持って出発できるはずなのだがタカシは常にアワアワしている。
配達コースもまだ覚えていないのに新しい配達先が増えたり、荷物を置く場所が今日だけ違う配達先があったりする。
荷物を置いて帰ればいいだけかと思っていたがそうではなかった。
配達する時間が決まっていてお客さんが玄関先で待っているのだ。
「注文したものが入っていない」
「頼んでないものが入っていた」
「腐っていたので返品したい」
クレーム対応もその場でしなければならない。
一軒の配達先にかかる時間はますます増えていき、配達時間はどんどんずれていく。
タカシは常に「遅れてすみません」と謝っている。配達間違いも多い。
また、この仕事は自動車の運転手という面もあり、交通違反や事故に対しては厳しい。
タカシは信号無視とスピード違反と民家の屋根に車をぶつけたということで、怒られた。
職員が全員集まった会議室で失敗の原因と解決策を報告して以後このようなことが起きないように気をつけますと謝罪する。
けど、なぜ失敗したのかタカシには本当のところ、わかっていない。
そんなこんなで毎日残業。
そんなつらい毎日を送っていたある日、所長から呼び出され、衝撃の言葉を聞く。
「タカシくん、残業代を稼ぐためにワザと仕事できないフリしてるって、みんなが言ってるんだけど、ホントなの?」
「そんなわけあるか、できればすぐにでも帰りたいわ!!」
この職場辞めよう!タカシは決めた。